有数寄屋造客房的旅馆特刊

有数寄屋造客房的旅馆特刊

 四季を愉しみ、風流を愉しむ、和の粋に満ち溢れた数寄屋造り。
 安土桃山時代から江戸時代にかけて用いられた茶室風の建築様式で、千利休によって完成されたといわれている芸術品。
茶人たちが格式ばった意匠や豪華な装飾を嫌ったため、どこまでもシンプルに自然の良さを活かしているのが特徴だ。
 日々の喧騒から離れ、いざ、和の感性に触れる旅へ――。

数寄屋造り客室の魅力について

自然に心が洗われる「和の情緒」

        

 数寄屋造りの客室を配する宿は、概ね“純和風”もしくは“老舗”をうたう旅館が多いことだろう。
 数寄屋造り自体が歴史のある建築様式であること、また玄関入口の門構えから和の風情を醸し出し、ロビーや客室への回廊、そして客室まで随所にその意匠と技を散りばめて侘び寂びの空間を創り上げている。
 普段は触れることがなくても、古より続く日本文化の佇まいに、日本人なら誰もが心の安らぎを覚え自然に心が洗われるものなのだ。

茶人の精神が宿る「匠の技」

        

 シンプルな和の美しさを存分に堪能できる数寄屋造りの客室。
 書院造と比べて小規模で質素な床の間や、自然の趣きを残しつつ洗練された細工の欄間、節や曲線の美しい自然木を使用した丸太柱などが特徴と言える。
 数寄屋造りの建築をデザインできる職人はそう多くはいないから、宿主に聞けばもしかしたら驚くような匠が手に掛けた客室かもしれない。
 まずは客室に入って一服、“虚飾を嫌い内面を磨いて客をもてなす”という茶人たちの精神に触れたら、匠の技に思いを馳せてみてはいかがだろう。

庭園を巧みに取り入れた「茶室の面影」

        

 数寄屋造りの客室を配する旅館は前庭、中庭、奥庭と庭園を巧みに取り入れた造りが多く、客室からゆったりと四季の情緒を愛でることができる。
 それは、もともと庭園に面して別棟として造られた小規模な茶室を数寄屋と呼んでいたことに由来されるのかもしれない。
 手入れの行き届いた苔むした岩や植栽が綿密に配され、春の新緑、夏の緑陰、秋の紅葉、冬の雪景色と四季によって異なる表情を魅せる庭園をひとり占めできるとは、何とも贅沢な話しではないか。

一押しの数寄屋造り客室のある旅館をご紹介

 一口に「数寄屋造り」といっても厳密に形が決まっているわけではなく、シンプルでありながら洗練された意匠として建築物に反映されているもの。
 旅館によっておもてなしの心が変わるように、数寄屋造り客室の姿もまた様々な有り方がある。
 数ある旅館の中から、和風建築美の粋を追求した数寄屋造り客室をご紹介していこう。

西村屋本館 「観月の間」の写真

西村屋本館 「観月の間」

        

 1300年の歴史を誇る城崎温泉におごそかに佇む老舗旅館。
 入母屋破風の2階建て木造建築は古き良き日本情緒が漂い、風情豊かな日本庭園が雅に客人を迎えてくれる。
 母屋から奥に位置する別棟「平田館」は、吉兆などの有名料亭を手掛けた数寄屋建築の巨匠と称される平田雅哉氏が手掛けたもの。
 露天風呂付特別室「観月の間」はとりわけ広々とした空間で、欄間や障子の桟の精巧な細工や宿の貴重な収蔵品が十六畳の客室に彩りを添えている。
 高床式の造りは中庭を見下ろすのに都合良く、和の趣きを存分に堪能できる。

西村屋本館 「蓬莱の間」の写真

西村屋本館 「蓬莱の間」

        

 同じく西村屋本館の別棟「平田館」が配する蓬莱の間は、十二畳と六畳の二間続きの和室にリビングが付いた露天風呂付特別室。
 無駄な装飾を一切排除したシンプルな空間には宿の貴重な収蔵品のインテリアがさりげなく置かれ、アクセントにちょうどいい。
 窓辺に設えたローソファは座り心地が良く、大きな窓から緑豊かな稜線を眺めながら静けさに満ちた安らぎのひとときを愉しむことができるだろう。

鷹の巣館 「柏の荘」の写真

鷹の巣館 「柏の荘」

        

 江戸時代後期が発祥とされる鷹の巣温泉に約3000坪の敷地を持ち、本館と8つの離れを配する名宿。
 「柏の荘」は十二畳半と十畳の二間続きになっている和室に、広縁と内湯に加え、広々とした月見縁台と露天風呂まで備えた贅沢な特別室だ。
 端正な数寄屋造りの客室は直線的なシルエットが美しく、純和風の趣きと落ち着きある風情。月見縁台に置かれた露天風呂は総檜造りと豪華で、春に愛でることができる満開のソメイヨシノをはじめ、新潟の豊かな四季の移ろいをゆったりと湯に浸かりながら堪能してほしい。

べにや 「呉竹」の写真

べにや 「呉竹」

        

 明治17年に創業し芦原温泉随一の老舗旅館とうたわれるべにや。
 雅な屋根装飾が目を惹く風情ある佇まいは福井県で初めて有形文化財に登録されたもので、建具職人の技が冴え渡る数寄屋造りの客室を設えた三つの棟を敷地内に配する。
 「呉竹」は十畳の本間の他に二つの控え間が備わる最高峰の特別室で、すっきりとした空間と意匠を凝らした細工はまさに数寄屋造りの粋を感じる日本の伝統美。
 雪見障子を開け放てば宿自慢の表庭と端正な坪庭が拓け、四季折々の情緒に心癒されることだろう。
 著名な文人・歌人や故石原裕次郎さんも静養のため滞在したことでも知られる由緒ある客室。

月光園 游月山荘 「桐壺」の写真

月光園 游月山荘 「桐壺」

        

 日本最古の温泉地とうたわれる有馬温泉に構え、この地では数少ない源泉掛け流しの宿。
 有馬屈指の景観美を誇る落葉山の懐に抱かれ、目前には蛍が飛び交うという清流 滝川のせせらぎに癒される純和風旅館だ。
 桐壺は数寄屋造りの十畳和室に八畳のリビング、そしてツインベッドが置かれたベッドルームに信楽焼の風情薫る露天風呂まで配する贅沢な特別室。
 月を愛でられるように備えられたお月見台(縁台)からは手入れの行き届いた坪庭が臨め、静かな時の中でしっとりと侘び寂びを感じることができるだろう。

月光園 游月山荘 「夕顔」の写真

月光園 游月山荘 「夕顔」

        

 同じく游月山荘にある夕顔は、朱塗りの膳に茶を基調とした調度品の設えが気品溢れる貴賓室。
 十畳の和室と八畳のリビング、そしてベッドルームに素朴な風合いの露天風呂を配した贅沢な空間が拡がる。
 リビングのふっかりしたソファは気心知れた相手との寛ぎの団らんにぴったり。
 数寄屋造りの和室には心和む掛け軸や季節を感じさせる生け花が整えられ、気品の中にも人の温かみが宿る客室となっている。

仙郷楼 「別邸奥の樹々 Aタイプ」の写真

仙郷楼 「別邸奥の樹々 Aタイプ」

        

 箱根の玄関口である箱根湯本駅から車を約30分走らせると見えてくる荘厳な佇まい。
 創業明治3年、約1万5000坪の敷地を誇る仙郷楼本館の左手に別邸「奥の樹々」が構える。
 気の薫りに癒される和の空間を畳敷きの廊下に従って進むと、奥手で客人を迎え入れるAタイプ客室は十畳の和室2間に露天風呂とジャグジーを設えた内風呂まで供わる豪勢な造り。
 数寄屋造りの粋を感じる和室はシンプルな調度と匠の技が随所に光り、窓辺に拡がる雄大な箱根外輪山を眺めれば極上の満足感に包まれるはずだ。

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