嚴格選擇! 美味的螃蟹旅館

嚴格選擇! 美味的螃蟹旅館

待ちに待った冬の味覚の王様「カニ」のシーズン到来!
今回はその中でも特に美味しいといわれる「ズワイガニ」についてご紹介したい。

昨年の11月6日、一斉に解禁されたズワイガニ漁は、年明けの今もまだまだ最盛期。
ブランドカニで有名な漁港には今日もたくさんのズワイガニが水揚げされ、美食家を喜ばせている。
茹で、焼き、刺し、鍋、などお召し上がり方もいろいろ。
さあ!「今年も!!」「今年こそ!!」
ズワイガニを食べに行こう!

その1「ズワイガニの豆知識」

「ズワイガニ」と「松葉ガニ」「越前ガニ」

        

 この違いは実はあまり知られていなかったりする。
 まず最初はこの違いから…

 ズワイガニとはどういう「カニ」かというと、

「ズワイガニ(楚蟹、学名 Chionoecetes opilio) は、十脚目ケセンガニ科(旧分類ではクモガニ科)に分類されるカニ。
 深海に生息する大型のカニで、重要な食用種でもある」
(「ズワイガニ」(2016年1月7日 (木) 10:20 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』。)

 身が大きく甘みがあり、食べ方もいろいろあるズワイガニは、日本近海では日本海側に多く生息しており、漁期が冬季にあたることから、主に関西圏の日本海沿いの温泉地では冬の集客の目玉として積極的にPRしている。
 一方、「松葉ガニ」「越前ガニ」というのは、雄のズワイガニの中でも漁場や水揚げされた漁港を限定した、いわば「カニのブランド名」になる。
 言い換えると、「松葉ガニ」「越前ガニ」は全て雄のズワイガニだが、雄のズワイガニだからといって全てを「松葉ガニ」「越前ガニ」と呼んではいけない、という関係になる。

 ちなみに、実はこのブランド名がまだ他にも存在するので、ちょっとわかりにくくなっている。
 こちらについては後程詳しくお話ししたい。

深い水の底から

        

 ズワイガニが生息しているのは、水深200mから600m前後の深海。
 漁船から下ろした底引き網(地域によってはカゴ漁のところも)で獲るが、海底の水温がおよそ1℃ほどのところから急に海上の暖かい水にさらされると、カニは一気に弱ってしまい、最悪死んでしまう。
 そうなると味が落ちる上に値打ちも下がってしまうので、引き揚げられたカニはすぐさま漁船に備え付けられている深海域の水温まで冷却された海水水槽に移される。
 そして生きたままセリにかけられ、皆さんのところに届けられることになる。

時間との闘い

        

 ズワイガニは日本海以外にも、北太平洋、オホーツク海、ベーリング海峡にも生息しており、多く漁獲されているが、日本海沿岸で獲れるものとはその値打ちが大きく劣ってしまう。
 その違いは、ずばり「鮮度」。
 海底から上がってきたカニは、例え冷却水槽に移したとしても、やはり時間とともに弱ってしまう。
 生きたまま日本に持ってくることが出来ないので、冷凍保存するしかないが、そうすると解凍するときに旨みが逃げてしまうのだ。
 その点、沖合数十キロまでに漁場がある日本海沿岸では、網から出して数日、早ければなんとわずか数時間で漁港まで届けることができる漁場もある。
 だからこそ、日本海沿いの温泉地では新鮮で美味しいカニを、様々な食べ方で味わうことができるのだ。

カニ漁の歴史

        

 ズワイガニの名が歴史に登場するのは江戸時代中ごろから。
 おそらくズワイガニであろうと思われる「越前蟹」という名前は、安土桃山時代の公家三条西実隆の日記に記されていたが、1724年に刊行された『越前国福井領産物』に注釈として「ずわいがに」という名が出てくるのが確かな記録といわれている。
 そのころは人力や帆に受ける風の力で網を引き揚げる細々とした漁獲量だったが、明治に入ると石炭や石油燃料などの動力によってより深いところから大量のカニが獲れるようになり、多くの人々がその旨みを知ることになる。
 戦中は途絶えたカニ漁だが、戦後の経済発展に伴いその需要は大きく高まり価格も急騰、漁獲量も急速に増大していった。

危機と再生

        

 需要拡大と価格高騰の機会を逃すまいと乱獲した結果次第に漁獲量は減少し、昭和40年代の1万2千トンから、昭和60年には千トン台とわずか20年で1/10近くまで落ち込んでしまう。
 それまでも減船や禁漁区設定など対策は講じていたが、ここに至っていよいよ本格的な資源保護施策を講じることになる。
 より厳密な禁漁区・禁漁期間・漁獲サイズの設定やカニの混獲を防ぐためのコンクリートブロックや保護礁設置、稚ガニの放流など対策をとった結果、少しずつ漁獲量も回復し、最近は3千トン前後まで復活してきている。

その2全部知ってる?ブランドガニ

 全てズワイガニだが、漁場や水揚げされる港によっていくつものブランドガニが存在する。
 また、その中でも山陰地方(京都府北部、兵庫県北部、鳥取県)の港に水揚げされるズワイガニはまず「松葉ガニ」と称され、さらにそこからそれぞれ別のブランドガニとして名前が付けられるのだ。
 当然、ただ名前が違うだけでなく、それぞれのブランドが鮮度、厳密な選別などによってブランド価値の維持向上に日々努力している。
 また、ブランドガニの証として、それぞれのブランドガニにはその品質を保証するタグ(札)が必ず取り付けられている。
 今回は、その中でも代表的ないくつかをタグと併せてご紹介させていただく。

加能ガニ

        

 橋立港、金沢港、輪島港など石川県内の港で水揚げされたズワイガニ。
 タグは青色。
 石川県の漁協が平成18年に統合されたことを契機に、県産ズワイガニの名称を一般公募し、石川県の地方名である「加賀」と「能登」の最初の文字をとったこの名前が選ばれた。
 沖合十数キロという近海が漁場なので、鮮度が高いことが自慢。
 甲羅幅9cm以上で船主が自信のあるものだけにタグをつけることができる。

越前ガニ

        

 三国港、敦賀港、越前港など福井県内の港で水揚げされたズワイガニ。
 タグは黄色。
 明治41年に当時の県知事が東宮(皇太子)に献上した時から続く、皇室に献上される栄を担うカニとして有名。
 毎年2月頃、三国港で水揚げされた体長80cm以上、1.3Kgを超える極上品の超特大ズワイガニが15杯、両陛下をはじめ各宮家に届けられる。

間人ガニ

        

 京都府北部の丹後半島にある間人(たいざ)港で水揚げされた松葉ガニ。
 タグは緑色。
 わずか5隻の小型船でしかカニ漁が許されいない上、海が荒れる冬の日本海ではそもそも漁に出られない日も少なくないことから漁獲量が非常に少なく、「幻のカニ」ともいわれている。
 経ヶ岬沖の漁場から日帰りで港に帰り、夕方にはセリにかけられる間人ガニは、抜群の新鮮さと引き締まった身の味わいから水揚げされるとすぐに東京大阪などに出荷されることも多く、現在ではその稀少性がさらに高まっている。

津居山ガニ

        

 兵庫県北部、城崎温泉に近い津居山港で水揚げされた松葉ガニ。
 タグは青色。
 カニ漁の漁船が15隻ほどの小さな漁港だが、日帰り操業の小型船以外にも数日間の漁が 可能な大型船もあることから、安定した水揚げがある港として重宝されている。
 また、港から約50キロ沖、日帰り操業が可能な漁場は間人ガニのそれとほぼ同じ場所にあり、「幻のカニ」といわれる間人ガニと同じカニが新鮮な状態で水揚げされるとあって、近年注目されている港でもある。
 ブランドの維持にも非常に力を入れており、一般的に数種類程度とされるカニのランク付けが、津居山ガニではなんと60ものランクで区別されていることも特筆しておかなければならないだろう。

浜坂ガニ

        

 兵庫県北部の鳥取県境に近い浜坂港で水揚げされた松葉ガニ。
 タグは水色。
 最新鋭の機材を積んだ大型船がメインの港で、荒れる冬の日本海でも数日間にわたって漁を続けられることから安定したカニの供給ができるところが強み。
 深海域と同じ冷水温を維持した活けカニ専用の大型冷却水槽によって、活かしたまま泥を吐かせたカニを港に持ち帰ることができるので、鮮度についても安心できる。
 平成19年には、カニの目利きから調理法、カニ料理に合う酒や歴史、接客といった多くの知識を身に付けたプロフェッショナルだけに与えられる「かにソムリエ」が誕生。
 ブランドイメージだけではなく、地域の文化や歴史、おもてなしまで合わせたトータルな取り組みは全国の観光地から注目されている。

とっとり松葉ガニ

        

 鳥取県の境港、賀露港、網代港などで水揚げされた松葉ガニ。
 タグは白色。
 水揚げされた松葉ガニの中から、甲羅幅11cm以上で足折れがないなど厳しい基準をクリアしたカニだけに許される白色のタグの裏面には船名が記されており、鳥取県が認めるブランドの証としてセリが始まる前に特別に付けられる。
 平成27年からは、その中から甲羅幅13.5cm以上、重さ1.2kg以上といった5つの厳しい基準をクリアした上に、10人の目利きが認めた最上級のとっとり松葉ガニを「五輝星(いつきぼし)」して新たにブランド化。
 販売量は全体のわずか1.5%以下という「五輝星」の初セリにはなんと1杯70万円の値が着いたという。

その3ズワイガニの食べ方いろいろ

いよいよお楽しみの「ズワイガニの食べ方」講座。
ズワイガニのが揚がる港に近い宿では、新鮮なカニを様々な料理でいただくことが出来る。
ここではその代表的ないくつかをご紹介。

茹でガニ

 茹であがりの赤い色から最も知られており、そして調理法もいたってシンプルだが、カニの美味しいところが一番良くわかる食べ方、ともいわれている。
 「ただお湯に入れて茹でるだけ」と素人は思いがちだが、然に非ず。
 これまで数知れないカニを茹でてきた料理人の手にかかった茹でガニは、身の繊維の隅々までカニの旨みが染みわたり、独特の香りとともにカニを食することの幸せを感じさせてくれる。
 お土産で買った、浜茹でされたカニを家で食べるのも悪くはないが、ぜひ今年は「新鮮な活けガニの茹でガニ」を温泉旅館で召し上がっていただきたい。

焼きガニ

 炭火の熾った七輪の網の上で、芳ばしい香りを立ち上げながら焼かれるカニ…。
 焼き上がりを待てずに思わず手を伸ばしてしまうかもしれない。
 熱々のカニ身をその旨みがつまったエキスごといただくのは、まさにカニ料理の醍醐味といってよいし、カニ味噌などをつけて濃厚な味を楽しむのもまた素晴らしいに違いない。
 ただ、気を付けないといけないのはその焼き加減。
 焼きすぎると水分が飛んでしまいパサパサした味気ないものになってしまう。
 自分で焼くときは料理人や仲居さんの注意をよく聞いて、絶妙の焼き加減で味わってもらいたい。

カニ刺し

 新鮮な活けガニだからこそ味わえる、極上の一品。
 氷水にさらされた新鮮なカニ身は、「カニの花」というようにあたかも藤の花の如く身が弾け、目でも楽しませてくれる。
 新鮮であればあるほど、まずは何もつけずにそのまま口にいれてまったりとした食感と豊潤な旨みを噛みしめていただきたい。
 あとはお好みの味付けで、となるが、宿によっては特製の醤油や塩、カニ味噌をつけてなど様々なバリエーションでカニ刺しを味わうことができるはず。
 ただ、新鮮さが一番の美味しさなので、後回しにせず真っ先にいただこう。

カニすき・カニしゃぶ

 寒い冬だからこそ味わいたいカニすき。
 新鮮な活けガニと地場の野菜の旨みが混然と交わったカニすきの美味しさはまさに絶品。
 身が赤くなったらカニは食べごろなので、熱々の滋味を心ゆくまで味わって欲しい。
 ただ、食後の愉しみ、カニのエキスが一杯しみ込んだ出汁でいただく雑炊の分のために少しはお腹を空けておくことをお忘れなく。
 また、宿自慢の出汁が入った鍋に、新鮮なカニのむき身をサッとくぐらせていただくカニしゃぶも悪くない。
 他のしゃぶしゃぶと同様、カニ身を長く鍋に浸けるのは厳禁!
 カニ本来の味と出汁の旨みを味わうには、長くとも10秒以内で上げないといけない。
 せっかくの冬の味覚の王様。
 大切に召し上がっていただきたい。

カニ雑炊

 鍋の後のお楽しみは、やはり雑炊であろう。
 カニや野菜の旨みをいっぱいに取り込んだ出汁をご飯に吸い込ませ、溶き卵を絡ませて 刻みネギと海苔を振り掛けて…。
 その美味しさは、あえてここで語らなくても、もう皆様の頭の中に広がっているに違いない。
 食べきれなかったカニ身があればほぐして一緒にいただくのもおすすめ。
 『もう食べられない!』という声がいつも上がるが、不思議と残さず食べられるのが鍋の後の雑炊。
 それがカニであればなおさらである。

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