老舗旅館に泊まろう。

老舗旅館に泊まろう。

 風格ある佇まい、創業時から今に継がれるおもてなしの心。
 歴史と伝統に彩られた老舗旅館は、旅そのものに情緒と趣きを添えて近代型のホテルとは違った体験を私たちに与えてくれる。
 友達と気ままにリーズナブルな旅もいいけれど、一度は訪れたい憧れの頂。
 泊まればきっと自慢したくなる、他では味わえない老舗旅館ならではの魅力をご紹介しよう。

老舗旅館の魅力について

重厚でクラシカルな「建築様式」

        

 老舗旅館といえば、誰もが重厚でクラシカルな建築様式を思い浮かべるのではないだろうか。
 純和風旅館なら和情緒織り成す広々としたロビーに、客室に赴けば床の間や床脇の棚を具えられ雪見障子から柔らかな陽が射し込む空間の数寄屋造りといった具合。
 洋風なら厳かなシャンデリアや柱のデコレーションに古の時を感じることができるだろう。
 その建築術は、もはや文化なのだ。
 粋で雅なデザインは見ているだけで目の保養になり、保存状態が評価されて国の有形文化財に登録されている老舗旅館があるのも納得できる。

著名人を迎え入れてきた「悠久の歴史」

        

 長きにわたってその地に暖簾を掲げてきた老舗旅館には、年月の中でその名に恥じない偉人や著名人、作家を向かい入れてきたところもある。
 彼らが好んで滞在した「特別室」がそのまま残されていたり、貴重な絵画やゆかりの品々を展示している老舗旅館もあるので、宿をとったときはファンならずとも同じ空間にゆっくりと身を委ねたい。
 悠久の歴史に想いを馳せながら贅沢に時を過ごす、これも老舗旅館ならではの愉しみ方だ。

伝統に培われた「おもてなしの心」

        

 やはり最後は主人の感性と伝統に培われてきた老舗旅館ならではのおもてなしの心に触れたいものである。
 それはご挨拶や客室サービスといった目につきやすいものだけに留まらず、旅館それぞれにしっかりとしたトータルコンセプトが根付いている。
 たとえば玄関口の季節の花だったり、坪庭の十二ヵ月の月次の装いだったり、あるいは温泉を愉しんだ後の湯上りに振る舞われる自家製の冷菓子だったり。
 これらは一見どこの宿も実践していそうなものだが、老舗旅館のそれには、地域やひいては日本を代表する宿だという威厳と誇りがある。
 どこか背筋が凛として、訪れた客人の明日からの糧になる、そんな素晴らしい老舗旅館にぜひ大切な人と訪れてほしいのだ。

おすすめの老舗旅館をご紹介

  文化的建築やおもてなしの心など、これまで老舗旅館の主だった魅力を述べてきたが、これ以外にもお愉しみはたくさんある。
 地場産素材をふんだんに使用し料理長の匠の技と見事にコラボレートした目にも鮮やかな料理の数々や、土地の恵みを蓄えた豊富な湯量の温泉がなみなみと溢れる趣向を凝らした浴場など、どれも客人の琴線に触れるものばかり。
 日本に名を残す老舗旅館の中からほんの一部をご紹介していこう。

伝承千年の宿 佐勘の写真

伝承千年の宿 佐勘

        

 宮城県は秋保温泉の里山にどっしりと構える佐勘は、平安期より秋保湯元の山守を仰せつかった由緒ある歴史を持つ老舗旅館。
 特に仙台藩主・伊達家とは縁が深く、主屋には伊達家ゆかりの書状や甲冑が展示される他、400年以上も灯火を切らさないという囲炉裏の“家宝の聖火”が脈々と続く歴史を物語っている。
 貫禄を感じる宿構えは、しかし単に老舗という言葉だけで言い尽くせるものではない、伝統的な和風建築に近代的なホテル機能を融合させた佐勘ならではの独自スタイル。
 浴場には伊達政宗公が湯浴みしたとされる「名取の御湯」が再現されており、風情ある温泉で源泉かけ流しの秋保のいで湯に揺蕩うことができる。

鷹の巣館の写真

鷹の巣館

        

 江戸時代後期が発祥とされる鷹の巣温泉に約3000坪の敷地を持ち本館と老舗旅館8つの離れを配する老舗旅館「鷹の巣館」。
 古くは米沢藩主に始まり、若き故佐藤栄作元内閣総理大臣等数々の政治家も訪れた華々しい歴史を有する。
 多くの著名人に愛された名宿は純和風の造りで、離れの客室は組子の書院窓を付けた美しい床の間や床脇の天袋などに和を尊ぶ職人の技がキラリ。
 全ての離れに露天風呂が付いているが24時間入浴可能な大浴場も備え、古くから続く秘湯鷹の巣温泉を自家源泉かけ流しで贅沢にいただくことができる。

花紫

花紫

        

 発祥は奈良時代、時代を経て松尾芭蕉が奥の細道で滞在しその名を広く知らしめた山中温泉は風光明媚な観光地。
 中でも花紫は四季折々の自然美で名勝高い鶴仙渓のほとりに佇む高級老舗旅館と称されている。
 客室でのウェルカムドリンクや晩餐には山中の地から生まれ世界的に評価の高い九谷焼の器を用いて客人をもてなし、温泉に浸かれば山中節の調べが流れるなど様々な旅情が高まる仕掛けがふんだんに取り入れられているのは花紫ならではのおもてなしの心だろう。
 旬の素材を使った約50種の料理から好きなものを選べる彩り豊かな「アラカルト懐石」は、多くの客人を再訪させる宿名物になっている。

べにやの写真

べにや

        

 明治17年に創業し芦原温泉随一の老舗旅館であるべにやは、昭和31年の芦原大火という震災の受難を潜り抜け今もなお圧倒的な存在感で客人をもてなす。
 雅な屋根装飾に目を奪われる3つの棟には建具職人の技が冴え渡る数寄屋造りの客室を設え、その風情は近代和風建築の典型例と呼び声高く福井県で初めて有形文化財に登録されるに至った。
 また全ての客室から望むことができる庭園は庭師が技術の粋を駆使したもので、春には躑躅や藤の花、夏には蛍が舞い飛び秋は紅葉、冬は雪吊りの雪景色と四季折々の自然美がまるで芸術作品のよう。
 数多の匠の技に触れながらの滞在は格別の一言に尽きるだろう。

間人のお宿 炭平の写真

間人のお宿 炭平

        

 明治元年に創業した炭平は京都府の漁村、丹後町間人に構え丹後では最も古い老舗旅館として温かいおもてなしを今に伝えている。
 客人を迎え入れるロビーや全ての客室から雄大な日本海が拓け、四季折々に様々な表情を映す大海原の景観は客人に圧倒的な開放感をもたらせてくれることだろう。
 この海原を全身で感じるなら大浴場に足を運ぶことをおすすめする。どっしりと和の情緒が漂う岩造りの内湯も素敵だが、ぜひ個性的な湯舟が独特の優雅さを演出する露天風呂へ。
 心ゆくまで温泉に長湯しながら澄み切った青空と永遠に続く水平線を眺めれば丹後の自然の恵みに感謝したくなるはずだ。

西村屋本館の写真

西村屋本館

        

 開湯から1400年の城崎温泉に江戸より暖簾を掲げる老舗旅館。
 入母屋破風の木造建築は見るからに由緒正しい歴史を感じさせ、上質なひとときを過ごせる期待に胸が膨らむ思いだ。
 日本建築の伝統を大切に重んじた客室は和の風情溢れる数寄屋造りで、柱の建て方や照明を宿す天井の工法にも職人の技が息づく。
 いにしえより多くの客人を癒してきた城崎の温泉は、檜の薫り漂う大浴場や円形の湯舟と丸い窓に中国の舗地を模した「福の湯」などでたっぷり堪能できる。

仙郷楼の写真

仙郷楼

        

 創業明治3年の仙郷楼は、約1万5000坪の広大な敷地に本館含む4つの棟が隣接し箱根外輪山の眺望が素晴らしい老舗。
 帝国ホテルをイメージして設計されたというロビーを始め、ところどころに配されたアンティーク調の家具や装飾が落ち着いた和モダンの空間を演出している。
 仙石原温泉の湯元である大涌谷で古くから温泉の権利を有しているため、豊富な温泉量を使用できる恵まれた源泉かけ流しの宿。
 緑が目に清々しい岩造りの露天風呂や大きくとった窓から自慢の日本庭園が拓ける大浴場には肌に吸い付くような白濁の硫黄泉が贅沢に溢れている。

旅館すぎもとの写真

旅館すぎもと

        

美ヶ原温泉は奈良時代からその名が知られている歴史のある名湯。
 その温泉街の先に佇む旅館すぎもとは宿主の感性が随所に光る個性溢れた宿で、ジャズの調べが流れる空間には古民家を彷彿させる松本民芸家具や、カメラやオーディオのアンティーク品が並び一瞬タイムスリップしたかのような錯覚に陥る。
 多彩な趣味人である宿主が自ら腕をふるう創作「酒肴料理」の卓は、季節の地元素材をなるべく加工せずふんだんに使い、料理の供に薦められる選りすぐりの地酒の芳醇な味わいも格別。
 美ヶ原温泉にとってかけがえのない、地元の自慢の老舗旅館だ。